ASCA 30th記念 パートナー座談会 Part2
前回は「翻訳のプロセスの変化」についてお聞きしましたが、今回はそのプロセスの中で実践されている「工夫」と、機械と人との役割分担についてご意見を伺います。
CAT Toolの活用方法
-翻訳・チェックの精度や効率性、品質向上など、ご自身が取り組んでいる具体的な方策はありますか?
持田(以下、敬称略):
「正規表現をうまく使おう」キャンペーン中です。先日は、句点の有無に関するエラーを正規表現で検出できました。なるべく目視を避けたいところが他にもあると思うので、いまいろいろと模索中です。またソート機能(並び替え)もよく使用しています。1日ずっとチェックをしているとどうしても夕方には疲れてくるので、セグメントを単語数が少ない順にソートして、短い文だけをチェックする、といった具合です。体言止めの部分や柔らかい表現の部分といった文の種類に合わせて、ソートの条件を設定する、適切なソートの方法を選ぶということが大事だなと思っています。
柏木:
わたしは画面だけを見ていると目が滑るというか、目で追っているだけになってしまいがちです。できれば紙に印刷して、手元において見ながらチェックしたいと思ってしまうのですが…
三枝:
わたしはCAT Toolからバイリンガルファイルをエクスポートして、印刷はせずにタブレット上で作業するようにしています。タブレット用のペンを使って、数字は赤で〇をつけ、気になる箇所は蛍光ペンを引いたり付箋をつけたりしています。次にPC上のバイリンガルファイルを変更履歴付きで修正し、その後memoQにインポートし、最後に修正箇所を再度確認して、必要なコメントが入っていたら終了です。印刷をじっと待っている時間もなくなりましたし、原稿の処理も簡単ですよ。
柏木:そうなんですね!わたしもやってみます。また困ったら教えてください。
中西:
Wordベースのときは、「hypotension」と「hypertension」を訳し間違えるなど、あってはならないミスをすることがありましたが、MTにはそのような間違いはないので、CAT Tool+MTは助かります。化合物番号も数字が並んでいて間違えやすいので、CAT Toolに用語登録しておくととても便利です。
川合:
以前にgとqの打ち間違いを見つけたときは、ドキッとしました。翻訳者さんが手入力されて、それが繰り返し使われてしまったのだと思います。
畠山:
全体のレイアウトを整えたあと、原文と本文を並べて確認するのですが、とくに部分的に改訂されている場合は、その箇所がハイライトされていることもあり、エラーに気づくことがあります。ただ、レイアウトという仕事でも、単位を気にしていたら単位だけに注目してしまい、記号などが目に入らなくなるので、翻訳やチェックをしている方は本当にいろんなことに気を配らないといけませんね。
中西:
数字や薬剤名ってコピー&ペーストするのがよいとはわかっているものの、打った方が速いときもありますよね。そういうとき用語登録されているとQA機能でアラートを出してくれます。
平尾:中西さんは作業スピードも上がっていますよね。分量が1500から2000word/日とかに。
中西:
本当ですか?CAT Toolでは、まったく同じではなくても似たような文章もTMが参照できるので、自分が文書内で前に訳した箇所のTMも再利用しやすいですよね。自分が一旦確定したものが次にTMとして出てきたときに、タイプミスに気づくこともあります。
「はは、」のように助詞が続いているような場合や漢字変換ミスなどは、Wordベースだと全体の確認のときにしか気づけないのですが、CAT Toolだと翻訳をしながら気づけるということもあります。前半を分納して先にチェックが開始されている状況で後半を翻訳していると、チェック担当の持田さんがTMを更新されていて、「なるほど」と納得して、修正TMを使うこともできます。
平尾:
チェックと同時進行のときはTMがどんどん更新されるので、PMを介さなくても翻訳者さんとチェッカーさんの間でコミュニケーションがとられている感じですね。なんか一人じゃないなというか、温かいなと思います。
機械による翻訳と人による翻訳の違い、そして両者の役割分担
柏木:
memoQはQAを完了すると「よくできました」ってほめてくれて、そこそこ感動的ですよね(笑)。ただMTは、訳語の選び方、情報を出す順番、語句の係り受けなど、どうしても限界があるので、機械が得意なところで人の手間を省きつつ、大事なところに人が注力できるようになるといいなと思います。MTの得意な部分はMTに任せて効率を上げつつ、完成度を高めるために人間が細部にわたって細心の注意を払うことが、差別化につながっていくのではないでしょうか。
平尾:
わたしはCAT Toolを使うことで、翻訳全体のクオリティはアップしていると思っています。書きっぷりの修正はpreferentialですが、preferentialではない、ぶれてはいけないキーワードの用語が合っていて、文章も成立している。これって最強のクオリティだと思います。
小野:
参考資料が多いと、どの資料から用語を拾うのがよいのか迷うときがありますが、文書を漫然と見るのではなく、ポイントを決めて確認することで適切な用語を選択できます。QA機能があるおかげで、参考資料で用語や表現を調べることに時間が使えますし、場合によっては、学会ガイドラインを検索したり、その他の資料を見たりする余裕もできます。
川合:
わたしはIBやPRTの改訂翻訳のチェックが業務全体の8割くらいなのですが、これらの文書ではいまもWordベースでチェックをしています。一方で、Webカタログのような内容の案件は、CAT Tool+MT翻訳のプロセスで対応しています。Webカタログは、原文の英語にないものを補ったり、日本語の流暢な言い回しが求められたりするので、CATやMTがあってもあまり役に立たず、機械と文書のミスマッチを感じています。
加藤:CAT ToolやMTをうまく利用して、さらにそれをお客様と合意しておくことが重要ですね。
まとめ
皆さんの個別の取り組みには目から鱗が落ちる思いをしましたし、またこれらを共有することで新たな使い方を思いつくかもしれないと思いました。次回は、日常業務に「あったらいいな」と思うツールや要望についてお話を伺います。
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