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第18回AAMT長尾賞受賞:クライアントに寄り添う

6月21日、AAMT(アジア太平洋機械翻訳協会)総会において機械翻訳システム実用化促進への貢献を表彰する長尾賞の授賞式があり、素晴らしい盾と立派な表彰状をいただいた。

「医薬品開発業務を迅速化するための機械翻訳の協調的開発と運用」というタイトルで、中外製薬株式会社 信頼性保証企画部 翻訳マネジメントグループと株式会社アスカコーポレーションの共同受賞である。
“新薬開発を待つ世界中の患者さんのために、より良い薬剤をより早く”という製薬会社のミッションを実現するため、製薬会社に“開発に関わる全ての文書の翻訳を、正確に、スピーディに提供する”という翻訳会社のミッションを実現するための仕組みだ。

品質は落とさずに納期を短縮する方法を考える中で、処理が圧倒的に速く翻訳品質が向上した機械翻訳(MT)の導入を検討した。しかしながら、実際に使ってみるとMTは誤る可能性があり、被験者の安全性を確保するための正確性や当局による承認審査に堪え得る品質の保証が別途必要である。なので、ポストエディット(PE)などによる品質管理タスクを入れることを前提とした。MTの品質が悪いとPEの生産性の低下を招いてしまう。
そこで、スピードを挙げて品質を上げる(維持)効果を可視化するためMTをカスタマイズして改良し、併せてPEの評価基準を作って検証を繰り返し、効果を図ることとした。

共同研究という形をとることで、これまでに蓄積してきた品質の高い「治験実施計画書」 をコーパスとして活用することが可能になった。これらのデータで転移学習(domain adaptation)を行い、カスタマイズMTモデルを作成した(下図)。

品質水準の設定としては、要求事項と非要求事項をリストアップし、正確性や可読性などPEで優先度の高い項目と、やらなくていいこと・やらないほうがいいことを明確に決めておき、品質の安定を目指した。

MT+PE による納期短縮と品質安定化の達成度を見るため、治験実施計画書(43,000語相当)の人手翻訳とMT+PEにかかる時間を2回の試行で比較し、MT+PEで目標値とした30%以上の時間短縮効果があり、再現性があることも確認できた。1回目で検出された品質の問題点に対しては2回目では対策を行い、改善効果を確認した。

実業務への導入後も、翻訳期間の短縮効果が維持された。MTを導入した2021年以降と未導入期の単位量(3,000単語)あたりの翻訳期間を比較したところ、MTの導入を機に翻訳処理スピードは大きく改善され、早期の納品に貢献した。

導入直後から改善効果は明確に現れ、導入準備を十分に行ってから導入した結果と考えられる。

今回の立役者は、開発担当はもちろん、クライアントの理解と意欲、また、翻訳チーム(PMと翻訳者、チェッカー)の力が何よりも大きい。クライアントに寄り添ってきたから実現できた。言うは易し、行うには多くの壁があるし、あったに違いない。それでも向き合ってくれた皆に感謝の意を伝えたい。皆の努力の結果が今回の受賞につながった。心から自慢したいチームである。(文:石岡映子)

AAMT会長の隅田英一郎先生(中央)と、中外製薬の担当者、アスカのメンバーで。

中外製薬株式会社

https://www.chugai-pharm.co.jp/index.html

AAMT長尾賞

https://www.aamt.info/news/nagao-2/

AAMT(アジア太平洋機械翻訳協会)

https://www.aamt.info/

長尾賞受賞に関するアスカコーポレーション プレスリリース

https://note.asca-co.com/n/nc583f554236f


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