見出し画像

2023年AAMT年次大会で探った“機械翻訳”の今と未来

11月29日、東京のAP虎ノ門とオンラインで「AAMT 2023, Tokyo ~機械翻訳の今と未来を探る~」が開催された。機械翻訳の精度の向上に加え、生成AIの登場は仕事に影響を与えるのか?という問いに対して、多くの熱い議論が飛びかった。

招待講演として、「LLMをめぐる諸課題」というタイトルで、国立情報学研究所 所長/京都大学 特定教授の黒橋禎夫先生が、世界と日本の様々な生成AIの進歩と取り組みについてわかりやすく紹介下さった。
奈良先端科学技術大学院大学教授である中村哲先生からは、「音声翻訳研究の現状と今後」についての最先端、興味深いお話も伺った。

その後のスポンサーセッションでも、MT、音声翻訳などのユニークなセッションが繰り広げられただけでなく、公募セッションでも、「ChatGPTはメディカル翻訳にどう使えるか」、「出版翻訳における機械翻訳の活用 -「Podmanイン・アクション」での事例」、「ChatGPTの技術を用いた固有表現抽出の手法」など、実例を交えた実践テクニックも紹介された。

最後のパネルディスカッションのテーマは、「通訳・翻訳の現実、技術と変革」。第一線でプロ翻訳者、通訳者として仕事をし、大学での研究、教育をされるお二人と、研究者として機械翻訳の実用化を目指す専門家を交えて、機械翻訳、翻訳と通訳業界の今と未来を探った。

まずは、会議・放送通訳者であり、東京外国語大学名誉教授の鶴田知佳子先生から「最新の通訳現場について」。コロナ禍で仕事の現場に行けなったことで仕事の形態が変わった、と。例えばリモート、会議場の同時通訳ブースに入らなくても、ハブスポットや、自宅での仕事が可能になり、Zoomだけでなく、様々なIT、AIツールが仕事を大きく変えたのである。辞書や参考資料を持ち歩く必要もなく、遠方に移動する必要もなくなり、不要になった時間を準備などで品質向上に使えるようになった、とも。AIを使った字幕対応も取り入れれば、世界同時配信も可能になる。
AIが進化することで、通訳と翻訳が近くなる?
2025年大阪・関西万博までにAI同時通訳が可能に?
鶴田先生ほどの実力をお持ちだのに、新しい技術と変化を取り入れる柔軟力に頭が下がる。
AI通訳が普及しても、瞬時に重要な情報をわかりやすく伝えるためには通訳者の高度なスキルが欠かせないと信じている。

次に、関西大学外国語学部教授の阪本章子先生が「MT時代の翻訳者教育・日本と世界の現状」について。最初に、
翻訳会社の方へ「どんな能力をもった翻訳者に仕事を依頼したいですか?」
翻訳者の方へ「翻訳者としてどんな能力を持っていますか?」
36項目挙げてください、と投げかけられた。
そこで、「欧州翻訳修士2022年技能フレームワーク」を紹介いただいた。欧州の大学院の翻訳コースを卒業した人が備えておくべき能力のリストで、大学院の翻訳コースで教えるべき項目である。
2009年から2017年、そして2022年に改訂されたようで、
「新しいツールが自分の仕事に与える影響を考えてから導入せよ!」
「MTを使うのは適所だけ。データとしての翻訳の価値に気付け!」
「翻訳会社にフィードバックを出すのもインタラクションのうち。」
など。その他「翻訳者には社会的・経済的 責任を自分で負うべきで、権利を主張せよ」という変更ポイントは興味深い。
技術が発達しても、大切なのは人間の知識とスキルで、多様化する翻訳産業界での challenges and opportunities に適応できる人材を養成するため、欧州翻訳修士2022年技能フレームワークの加盟大学は、5年ごとに教育内容の審査を受けるのだという。
先生が、翻訳業界に送り出したい人は、自律的に自分のスキルを売り込める、自分の翻訳のデータとしての価値を知っている、自分で最善のワークフローを「批判的に」判断し、実行できる人だと。
自分を知り、変える、変わることに労力をいとまない翻訳者でいてほしい、ということか。
私も心から同意する。

最後に、AAMT理事・東京大学大学院情報理工学系研究科 特任研究員の中澤敏明先生から「生成AI時代の機械翻訳:現状と未来」について。
生成AIの技術の進歩の現在、過去、未来をわかりやすくまとめられたスライド説明の後、「全て生成AIに作ってもらいました」と伝え、会場を笑わせた。画像含め、かなりきれいにまとまっているが、よく見ると意味不明な間違いもあるのが面白い。
その後の論文紹介もお手の物、さすがであった。
AI技術の進化を、大きなチャンスと受け取ることがまず重要と強調。
全く同感である。

パネルディスカッションでの、通訳者、翻訳者という職業はなくなるのか、という問いには、きっぱりNo。ただし、代替がなく、変われる人、技術を効果的に使える人。
AIは情報を理解しないが、人間は理解する、そこが違うと私は発言したが、理解しない(できない)人間もいる、と言われると、そうかもしれないと思ってしまった。脳科学的にも私の思い込みは違うかもしれないらしい。そもそも人間がAIより偉いわけではないし。

AI技術の進歩で、機械翻訳の精度が大きく向上し、加えて生成AIの誕生で、翻訳だけでなく、通訳、教育、ライティングなど、多くの業務が可能になり、この先の展開はだれも予測できない。しかしながら、どれだけ優れた技術も、作るのも、使うのは私たちである。AI技術を取り入れながら、品質をあげながら、新しい働き方が可能になったのだ。自宅から通訳するのが普通になり、翻訳速度が上がることで、プライベート時間にあてることも。
AI/MTは、私たちに新しい価値と働き方を提案する、と最後を締めた。

どの会社、翻訳者も、生成AIをどう使うか、で盛り上がり、企業展示も懇親会も大盛況だった。未来を考える、元気な会社や人が集まっている、と改めて実感。
ASCAももちろん参加した。
明るい未来が、必ず来る。

(文:AAMT理事 石岡映子)

年次大会の概要

ASCAのAIに関する取り組みは下記より


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!