Public access is not equal access
米国ホワイトハウス科学技術政策局は8月25日、科学出版業界向けに、公開論文とその添付資料(連邦政府が資金提供した研究の成果)を2025年末までにエンバーゴなしに即時公開することを求める指針を発表しました。米国科学振興協会(AAAS、Science誌とその姉妹誌の発行元)はこの指針を強く支持しています。その内容によれば、パブリックアクセスに向けては複数の方法が考えられます。複数の方法のうち、どれが優勢になるかはscientific enterprise(科学業界)にとって重大な問題になるでしょう。
AAASは科学会員組織として、科学者と技術者の視点からパブリックアクセスを評価しています。私たちはこの10年間で、様々なパブリックアクセスモデルを試みてきました。Scienceには図書館が論文購読料を支払う購読型ジャーナルが5誌と、著者が「論文掲載料」を支払って正式に発表された論文を無料で利用できるようにする(ゴールドオープンアクセス[OA])ジャーナルが1誌あります。これら6誌のジャーナルは全て、卓越した科学情報と影響力の強い分析結果を発表していますが、それらの持続可能性モデルは異なっています。モデルはそれぞれ、高い質(著者・読者・図書館員・資金提供者は私たちに、プロの編集者が指導する厳格な査読を経た質の高い論文の掲載を期待しています)、入念な編集、全ての関係データへのアクセス、目を引く説明的なビジュアル、そして興味をそそるウェブサイトを支えています。重要なこととして、私たちは誤情報を予防するために、メインストリームメディアとソーシャルメディアを通して、出版後の多くの論文について正確な研究範囲に関する情報を提供しています。
私たちの経験では、科学の公正性と再現性にとって誰もが利用できる公開データは必要不可欠であり、私たちはこうした出版直後のアクセシビリティーを求めています。信頼できる科学情報へのパブリックアクセスも大切で、正確で理解可能な科学情報を状況に応じて適切に読者ひとりひとりに伝達することが最も重要です。どんな読者でも良いものと悪いものを区別できるわけではなく、そういう時には私たちが、完成度の高い科学論文と低い科学論文を見分ける技術を提供して手助けしなければなりません。
パブリックアクセスによって、著者と読者の様々な活動領域は、その経済状況とは関係なく発展するはずです。これが科学の卓越性と人々の理解の推進力になるのです。パブリックアクセスのモデルには包括性に不十分なものもあります。著者が論文掲載料を支払うゴールドOAジャーナルは、資金が豊富で終身雇用されており、圧倒的に男性白人が多いという上級科学者にとっては好都合ですが、資金が乏しい終身雇用されていない、人種性別がはるかに多様な駆け出しの科学者にはさほど好都合ではありません。また、歴史的黒人大学などの小規模な学校の科学者や、資金が十分得られない数学や社会科学といった分野の科学者にとっても不利です。このモデルは、読者にとっては「オープンアクセス」が可能になりますが、多くの科学者と機関にとっては不公平になり得ます。
ゴールドOAモデルが科学業界にとってダメージとなるのは、それが薄利多売型のビジネスモデルのインセンティブになるときです。というのはその場合、論文1本あたりの収益が少なく、発行者は、ビジネスを回すためにどこかにその論文を公開せざるを得なくなるからです。発行者にとって逆インセンティブとなるのは論文の受理を加速させることであり、それによって「パブリッシュ・オア・ペリッシュ(論文を発表しない学者は消える)」という学術界の考え方が促進され、predatory publishing(ハゲタカ出版)の魅力が高まり、科学論文の質が低下します。私たちはゴールドOAジャーナルの出版者として、論文の質を維持するとともに、金銭的な目標を達成するために論文を受理する(その気持ちは分かりますが)ことはしないという、代償を伴う決断を下しました。
AAASは科学者のための会員組織として、私たちが支援する企業にとって進むべき最善の道を模索しています。私たちは、読者にとっての公平なアクセスと出版への公平なアクセスの間の緊張のバランスを取ろうと懸命に努力しているところです。そういうことからScience各誌は、大規模で研究集約的な機関ほど支払い額も大きくなるという、漸進的な価格設定のライセンスに基づいて利用してもらうようになっています。私たちは近いうちに、「グリーンOAゼロデー」と呼ばれる方針の下、納税者が資金を提供する全ての研究について即時のパブリックアクセスを提供する予定です。この方針では、Scienceの著者は自身の「著者最終稿(査読を完全に済ませた改訂版)」を、即時にまた追加料金なしに、自身が選んだパブリックリポジトリに掲載することが可能です。このような方式により、著者に対して論文掲載料の支払いを求めることなく即時のパブリックアクセスが可能になりますし、それと同時に、革新的な研究成果を伝えるという、また研究が社会に及ぼす影響に光を当てるというScience各誌の使命も達成されることになります。
AAASは、こうした私たちの方法が完璧ではないこと、また全てのジャーナルに有効であるとは限らない可能性があることは承知しており、引き続き他の案も模索していきます。私たちは、著者と読者にとって最大限公平な方針を実行するために、ホワイトハウス、資金提供機関、その他の様々な人々と連携していきたいと強く望んでいます。当面は私たちのやり方で、科学者の地理的ロケーション・機関提携・学術ランク・アイデンティティとは関係なく、世界を変える科学論文が発表され、公的な場所に掲載されることを保証します。私たちが改善しようとしている業界の構造に、さらなる構造的な不公正を組み込んではならないと、私たちは認識しています。
–Sudip Parikh、Shirley M. Malcom、Bill Moran
この文章は、Scienceの記事を翻訳したものです。内容に関しては必ず原文をご確認ください。
https://www.science.org/doi/10.1126/science.ade8028
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