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2022年AAMT年次大会が熱かった:災い転じて福をなす

2022年AAMTの年次大会が、3年ぶり、リアル、東京駅の近くで開催された。「⽇本語を含む⾔語対における制約付き翻訳タスクの近況」というタイトルで、東北⼤学情報科学研究科の阿部⾹央莉氏の基調講演で始まった。特定の⽤語を適切に翻訳することは可能であるが、アノテーション付きデータセットの作成や、簡易的な⾃動評価指標の策定が必要であると述べ、専門用語以外の翻訳の質や、評価の難しさを挙げられていた。専門用語なのか、翻訳全体の質のバランスなのか、常にこの問題が開発の悩みどころなのだろう。
その後、情報通信研究機構(NICT)の内山将夫氏による「NICTにおける自動『同時通訳技術』のご紹介」として、あっと驚く同時通訳のデモが衝撃的だった。会場からの質問でも出たが、もう同時通訳の仕事は無くなるのか、と不安になるほどの出來である。内山氏からは、今のニーズの代替にはならないが、通訳を頼みたいけど準備の時間や予算がない状況には対応し得る、と。通訳も翻訳と考え方は変わらない。2025年大阪。関西万博でのお披露目が待ち遠しい。

公募セッションも興味深かった。
特に、翻訳家、英語学習アドバイザー、講演家、作家、YouTuberという肩書を持つ堂本秋次氏の「翻訳チューリングテストの結果に見る、”機械翻訳らしさ”の正体とその軽減方法、および人間翻訳に期待されている価値について」という報告はユニークだ。550名以上の翻訳者から、良い翻訳、機械翻訳らしさなどを調査し、「人間翻訳{対して、“読みやすい、理解しやすい、語順が直感的である”といったことが期待されていると考えられる→ "人間翻訳らしい工夫“は特に期待されていない」など、翻訳者だから理解できる調査結果が面白い。
その後の、「meta翻訳〜個人開発から最高精度へ〜」について株式会社ClassIIIの藤井隆太朗氏の話も未来を感じずにはいられない。海外の翻訳エンジンに頼るのはいかがなものか、日本からでも作って見せると開発を進めているのだと。世界2位の英日翻訳精度と世界1位の日英翻訳の制度を誇るというからただのエンジンではない。機械翻訳も勝手に成長する時代、というメッセージもとても魅力的である。

最後のパネルディスカッションは、ポストエディット(PE)の国際規格「ISO 18587」自己適合宣言への取り組みについて。弊社を含めて二社の翻訳会社と翻訳サービスの規格である17100審査をされた日本規格協会の方が報告くださった。世界の翻訳会社と戦うために、この取り組みが重要であることが認識された。

講演もさることながら、今回はリアルで参加できたことが何よりうれしい。
懇親会では、久しぶりに会った業界の方々と、今どこにいるの?何しているの?などと話しながら名刺交換が飛び交い、話は止まらない。せっかくの料理も食べる暇もなく、これぞまさに懇親のための情報交換会だった。

隅田先生が挨拶で、紅葉が終わり、南天(ナンテン)の赤がきれいであることに触れ、南天は、音が「難転」、すなわち「難を転ずる」、縁起の良い木とされ、鬼門にあたる場所に植えられ、福寿草と葉牡丹と一緒にした正月用の鉢植えにして床の間を飾る。「災い転じて福となす」、コロナ禍が転じて福が来ることを挨拶に込められていた。来年は大きな躍動の年になるに違いない。