【従業員の物語】翻訳の基本はいつの時代も変わらない - 青木さん
ASCAに入社したきっかけを教えてください。
仕事をしながら翻訳学校に通っていたのですが、そこで講師をされていたのが田村房子さんで、そのご縁で声をかけていただきました。会社には週3回出社して最初はチェックから、その後時々翻訳をするようになりました。
ASCAでの最初の仕事は何でしたか?
毒性試験報告書の日英翻訳のチェックでした。当時は社内に6人くらいで、翻訳者、コーディネータなどの区別もなく、みんなで毎朝ミーティングをして、いろんなことを決めながら協力して1つの案件を仕上げるという感じでした。
とても少人数だったんですね。
最初はこの八千代ビルの4階にいたのですが、とにかくオフィスが狭くて、すぐ後ろが窓ですごく寒くて、会社に来てしもやけになりました(笑)。会議室もなかったので、いろんな話が筒抜けでした。少し広いオフィスに引っ越すことになりましたが、PCや机の移動も自分たちでやりました。
古い時代の話をし出したらキリがないですが、PCが壊れたら台車に載せて、淀屋橋にある大塚商会さんまで運んでいましたし、プリンターがリボン式だったので、翻訳は終わっているけど印刷が遅くて納品できないということもありました(笑)。
翻訳そのものについてはいかがですか。
自分は特に医薬のバックグラウンドがなかったので、創薬がDrug Discoveryということも知らなくて、田村さんにめちゃくちゃ怒られました。ワクチンでは「副作用」じゃなくて「副反応」という言葉を使うということも教えてもらいました。知らなくてすみません、としか言いようがないのですが、そうやって「絶対に間違ってはいけないこと」を叩き込まれました。
創立間もない頃なので、本当にいろいろあったと思いますが。
ある時、英訳の依頼があって、ある程度意訳してもいいですよと言われ、英訳して納品したら、原稿に赤字で「嘘つき」って書かれました。その赤い文字を覚えているので、おそらく石岡さんが、手書きの修正原稿をクライアントからもらってきてくれたのだと思います。衝撃でした。意訳しすぎて本意じゃなかったんですよね。再納品するときは、もう一度ネイティブの方に見ていただいて、なんとか無事に終えました。
それはかなりの衝撃ですが、他にもありますか。
「とにかくやってみる」という楽観的なシナリオで引き受けたら、蓋を開けてビックリということが多々ありました。でもこうした失敗を経ていくうちに、事前に確認すべきことや決めておくべきことがわかるようになりました。仕事をスムーズに進める上で、事前の丁寧な準備がとても大事だと思います。状況にもよりますが、「とりあえず走り出す」仕事には、危険な香りがします(笑)。
まだまだ出てきそうですね(笑)。
広告代理店が関西一円の1年間のイベントを紹介する、というお仕事がありました。内容は非常に興味深いのですが、イベント主催者や地方自治体に電話やファックスで確認をとりながら、という作業が非常に煩雑でした。当時はインターネットが今ほどではなく、直接英語名称を聞くしかありませんでした。図書館や本屋さんまで調べに行ったりもしました。
和歌山県の写真集の仕事も印象的です。歌人の道浦母都子さんが寄稿してくださっているのですが、その短歌を英語にするとか!難しかったですが、どうやってやったのかもう覚えてないです。石岡さんと和歌山県庁まで行って、帰りにサンマ寿司を食べたのは覚えているのですけど(笑)。
化粧品の翻訳をするときは、海外の化粧品の商品ラベルを見たくて、その頃北浜駅にあった三越の化粧品コーナーにも行きましたね。
尽きないですね。
どうしても外せないのはScienceの仕事です。毎週配信の、日本の報道関係者を対象としたニュースリリースだったのですが、専門家だけでなく一般読者の関心を引くような内容で、とても刺激的で興味深かったです。小惑星イトカワを探査した「はやぶさ」の論文が掲載された際には、Scienceからプレスカンファレンスを日本でやりたいという電話があり、コレスポンディングオーサーに連絡を取ったことが特に印象に残っています。
楽しいのですが、そろそろ最後にメッセージをお願いします。
翻訳とはどういう仕事で、どういうプロセスで進むかは、今も30年前も本質的に大きく変わらないと思います。コーディネータ、翻訳者、チェッカー、レイアウト担当者など、プロセスに関わるすべての人が、自分の仕事を点ではなく、全体の流れの中でとらえる発想が必要と思います。たとえCAT ToolやMTが導入されてIT化が進んだとしても、本当の意味で効率よく仕事をするのなら、自分だけでなくほかの人が何をしているのかを見ること、みんなが少しずつお互いのことを気にかけることが大事だと思います。
クライアントにご満足いただける品質という共通の目標に向かって、気持ちよく、効率よく仕事をしたいですね。そのためにも、一緒に仕事をする人たちとの率直なコミュニケーションと気遣いを大切にしたいと思います。