Breakthrough of the year 2024:新しいメカニズムを持つ注射型HIV薬が感染予防に効果!もうHIVは怖くない?
Scienceが今年一年の最も画期的な科学の研究成果として、HIV予防に効果のある薬剤の開発を選んだ。
HIVは毎年100万人以上が感染し、ワクチン開発は依然として難航している。しかし、今年、最良の選択肢となるかもしれない注射型薬が開発された。この薬は、1回の注射で6ヶ月間の感染予防効果を持つという。
アフリカの若い女性を対象とした大規模な有効性試験では、HIV感染がゼロになったという驚異的な結果が報告され、3ヶ月後には、4大陸で行われた同様の試験でも99.9%の有効性が確認されたという。HIV/AIDS研究者は、「レナカパビル」を予防薬として使用することで、世界的な感染率を大幅に低下させる可能性があると期待している。
HIV治療は、かつての恐ろしい状況から大きく進展した。1996年には、強力な薬のカクテルがHIVを完全に抑制し、エイズの発症を防ぐことを可能に。今回注目されている、抗レトロウイルス薬レナカパビルの場合はさらに優れており、多くの人々が慢性疾患として管理可能な状態で通常の寿命を全うできる。治療を受けた人々は、ウイルスが抑制されている限り、他者に感染させることもほとんどないという。
2021年には、2ヶ月ごとの注射が必要な薬剤「カボテグラビル」が市場に登場したものの、高コストや関心の低さが課題だった。HIVの患者数を2030年には20万人未満にする目標からは遠く離れているものの、レナカパビルを使った南アフリカとウガンダでの盲検試験では、注射をした患者の中でHIV感染者は一人もいなかったというから効果は大きい。まさに2024年のBreakthrough of the yearに選ばれる研究の成果である。
日本では、血友病の治療に非加熱の血液製剤を使ったことでHIVに感染した患者や家族が1989年に国と製薬会社を訴え、薬剤エイズ訴訟として大きな社会問題になった。1995年には川田龍平氏が未成年でのHIV感染を実名で公表。その製薬企業がASCA本社の近くにあり、彼の街頭演説や、会社を囲む抗議の人たちの姿をいまだにはっきり覚えている。
かつてHIVは感染したら死を迎えるだけ、という恐ろしい疾患だった。
それが今ではその恐怖から逃れることができる。
日本ではあまり取り上げられることはないが、患者数は増えているという。
今回の研究成果で多くの命が助かるとしたら、その効果は計り知れない。
その他、以下のようなトピックも成果として選んだ。
その他の画期的な研究
(Runners-up)
・ Unleashing immune cells on autoimmune disease
・ JWST probes the cosmic dawn
・ RNA-based pesticides enter the field
・ Organelle discovery adds an evolutionary twist
・ A new type of magnetism emerges
・ Multicellularity came early for ancient eukaryotes
・ Mantle waves sculpt the continents
・ Starship sticks the landing
・ Ancient DNA reveals family ties
課題として以下の4トピックも上げている
(Breakdowns)
・ Lessons not learned from COVID-19
・ Science as collateral damage
・ Psychedelic therapy hits a snag
・ Environmental negotiations flounder
コロナ禍による教訓が生かされているのか、ロシアとウクライナの戦争による科学施設の破壊や研究予算のカット、また、向精神薬の開発の難しさ、気候変動などへの世界的な取り組みの遅れなど、まだまだ科学界では多くの課題が山積である。
来年はどんな研究成果が生まれるのか?
原文は以下から読んでほしい。
Science’s 2024 Breakthrough of the Year: Opening the door to a new era of HIV prevention | Science | AAAS