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AI翻訳を活用し、納期を40%短縮

新薬のグローバル開発を迅速化する中で、日本語から英語へ、またはその逆への翻訳フローがボトルネックになることがあります。株式会社アスカコーポレーション(以下、ASCA)では、お客様の医薬品開発を加速するために、AI翻訳など最先端技術の開発に取り組むと同時に、既存の技術と組み合わせることにより、納期短縮と精度向上を目指しております。
本記事では、その一例として2022年のAIKO SciLingual Webinar「AI翻訳を取り入れたプロトコールの翻訳プロセスと効果~医薬・医学特化型AI翻訳と人による治験関連文書の翻訳業務~」でもご紹介させていただきましたプロトコール翻訳をAI翻訳の活用により納期短縮した実例をご紹介いたします。

プロトコール翻訳の課題

従来は、医薬品のプロトコール翻訳を依頼された際は、専門の翻訳者チームを組んで、約40,000単語のプロトコールを25日以上かけて翻訳し、さらにクロスチェックを含めると35日ほどかかっていました。しかし、最近では納期の短縮が求められることが多く、専門性と精度を保ちつつ翻訳の納期を短くすることが課題となっています。

AI翻訳の導入による課題解決

従来の人手翻訳を主体とした翻訳でもプロセスは確立されていますが、関わる翻訳者の労力や資質に依存するところが大きく、持続可能性やキャパシティの点で問題を抱えていました。
一方、医薬品開発は企業ニーズの上でも、社会的要請としても更なるスピードアップが要求されており、治験に必須であるプロトコール翻訳においても、この課題の解決は懸案事項でした。
そこで、ASCAは人手に全面的に依存するのではなくAI翻訳活用を前提とした新しい翻訳プロセスを構築しました。

AI翻訳への期待と限界

プロトコール翻訳には、まず正確性が求められます。これは文章の意味や数値・表記などの情報が適切に再現されているかという点です。さらに、専門用語や規制(GCP)を踏まえた誤解のない表現、一貫した用語使用、医療機関向け文書として相応しい文体、社内テンプレートやスタイルガイドへの遵守、見出しを含むドキュメント構造の妥当性、そして書式やリンクの保持など多岐にわたる要素も重要です。

AI翻訳技術は近年大きく進歩し、高精度で意味的に正確な訳文を生成する能力を持つようになりました。特定分野向けにカスタマイズされたAI翻訳モデルでは人間特有の入力ミスを防ぐことも可能であり、業務効率化の面では無視できないメリットが存在します。
しかしAI技術全般に言えることですが、誤りを全く無くすことは不可能であり、暗黙的なニュアンスの読み取りや、フォーマット整理等も得意ではありません。また書式情報が翻訳結果に悪影響を及ぼす場合もあるため、テキストだけを扱うよう工夫する必要があります。

これらの点から考えるとAI翻訳は非常に便利ですが人手翻訳やその周辺作業を完全代替するわけではありません。特に正確性担保は人間しかできず顧客やユーザーへ信頼性高いサービス提供する上で欠かせません。
効率性を上げるためには、AI翻訳の利用を基本とし、その不足点を補う作業やツールを取り入れた翻訳プロセスを整えることが重要です。


出典:AIKO SciLingual Webinar AI翻訳を取り入れたプロトコールの翻訳プロセスと効果~医薬・医学特化型AI翻訳と人による治験関連文書の翻訳業務~(2022年6月22日)

カスタマイズAI翻訳を組み込んだ翻訳プロセスの構築

効果的な翻訳作業のためには、AI翻訳の役割と人間の役割の明確化が必要です。そして、足りない部分を補完していくためにツールやシステムを使うことが理想的です。

ASCAではAI翻訳を組み入れた翻訳プロセスを翻訳マネジメントシステム(以下、TMS)の導入によって構築しました。TMSの導入により、用語集や翻訳メモリなどの言語資産を活用することが可能になり、これにより過去の翻訳結果をスムーズに引き出して用語やスタイルを過去の翻訳と一致させることが可能になります。
これにより、翻訳スピードを向上させつつも訳文に統一性をもたせることが可能になりました。

出典:AIKO SciLingual Webinar AI翻訳を取り入れたプロトコールの翻訳プロセスと効果~医薬・医学特化型AI翻訳と人による治験関連文書の翻訳業務~(2022年6月22日)

カスタマイズされたAI翻訳エンジンの構築

さらに、ASCAでは、翻訳プロセスの改善を加速化させるために、医学・医薬分野に特化させたAI翻訳エンジンを構築しました。
AI翻訳を翻訳のプロセスに組み込むにあたり、まず精度の高いAI翻訳エンジンを吟味して導入することが重要です。とくに、文書や分野が決まっている場合にはAI翻訳エンジンをそれに合わせてカスタマイズするのが非常に効果的です。たとえば、ASCAは医学・医薬分野を専門とした翻訳をサービスとして提供しているため、その分野に適合したエンジンを構築することによる恩恵は大きく、さらに各文書の翻訳に適したエンジンを開発すれば業務の効率化に寄与します。

TMSの導入に加え、カスタマイズAI翻訳の構築により、これまで32日間を要していた「翻訳+クロスチェック」の期間が19日に短縮され、全体では納期を40%圧縮することが実現したのです。

ASCA独自構築の医学・医薬特化のAI翻訳エンジン「SciLingual」
ASCAが開発した医学・医薬に特化した翻訳エンジンです。国立研究開発法人情報通信研究機構 (NICT) が開発したAI翻訳エンジンをもとに、臨床、非臨床などの医薬文書、医学論文などの独自に収集・翻訳したデータ、自社でエンジンをアダプテーションしました。
<対応文書>
臨床分野:治験実施計画書、総括報告書など
非臨床分野:承認薬データベースのCMC、薬理・毒性・ADMEなど
論文:がん、感染症、循環器、細胞生物学、免疫学の医学論文など
対応するファイル/エンジンと言語 | AIKO SciLingual | ASCA Corporation (asca-co.com)

おわりに

本件では、一人でも多くの患者の命を救うための新薬開発の迅速化を目指し、ASCAでは、そのために医学・医薬に特化したAI翻訳技術を活用し、翻訳業務の効率化を実現することができました。重要なのは、AI翻訳と人間が相互に補い合えるような形でAI翻訳を運用することだということです。
成功へのカギは、高精度にカスタマイズされたAI翻訳エンジンを使うこと、専門知識と豊富な経験を持つ翻訳者が質の高い作業を行うこと、そして、TMSの活用によってさらなる作業効率化を図った点です。

ASCAでは、今後はご依頼いただく翻訳案件だけでなく、製薬企業の社内、医薬の開発現場でも利用可能なシステムの開発と普及に取り組んでまいります。

医薬・医学に特化したAI翻訳プラットフォーム「AIKO SciLingual」

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