Breakthrough of the Year 2022:奇跡の宇宙望遠鏡から未来が見える
Breakthrough of the Yearの日本語訳版は下記URLからご覧いただけます。
2022年の最も革新的な研究テーマとしてScienceが選んだテーマは、「黄金の『目』で宇宙を見る(Golden eye)」である。
JWSTと呼ばれる新しい宇宙望遠鏡が、産みの苦しみの期間を経てついに華々しいデビューを飾ったのだと。バイデン大統領はホワイトハウスからの生中継で、新しい宇宙望遠鏡がとらえた初の画像を公開し、この望遠鏡を「奇跡」と表し、世界中の何百万人もの人々とともに、何千もの銀河が密集する様子に驚嘆したという。
宇宙科学史上で最も複雑なミッションであるうえにコストも100億ドルと最高額、地球上での建設に20年以上を要し、150万キロメートルに及ぶ宇宙空間を1ヵ月にわたり飛行している間にも何度も新たな難関が待ち受け、合計344にものぼる重要なステップに取り組んだ結果である。JWSTはわずか十数時間のうちに、5千万年古い銀河と、1億年古いと思われる銀河を発見したが、確認作業は始まったばかりである。宇宙の果てにある銀河の「ゆりかご」をのぞき込めることが示されたというから衝撃的である。
JWSTが系外惑星の大気を今後も探査し続ければ、こうした未知の星について新たな驚くべき事実がもたらされるだろうし、2040年代になっても燃料が残っているというから心強い。
その他9つの革新的なテーマも発表された。
まず、「多年生イネが農業を楽にする技術について(Perennial rice promises easier farming)」。世界中の主要な食用作物である、米、小麦、トウモロコシなどの収穫のための、農民による何週間におよぶ植え付け作業を開放できる品種改良が実現したというから驚きだ。
次に、「AIが創造性をもつ(AI gets creative)」という研究。人工知能(AI)は芸術的な表現や科学上の発見など、かつては人間にしかできないと考えられていた分野に進出しているようだ。この技術は、当初はゆっくりとした動きだったが、昨年になってついに人間のお株を奪ってしまったらしい。
「驚くほど巨大な微生物(A surprisingly massive microbe)」が発見されたとも。複雑な内臓を持つ巨大な細菌が発見され、生物学に衝撃を与えた、と。チオマルガリータ・マグニフィカ(Thiomargarita magnifica)と名付けられたこの微生物は押しピンほどの長さがあり、多くの細菌細胞よりも5,000倍大きい。フランス領アンティルのマングローブの沼地の枯れ葉の表面で発見された。細菌には、他の細胞に見られる内部輸送システムがなく、栄養素や老廃物の移動を拡散現象に任せているため、小さいサイズであることが必要だと研究者たちは考えていたらしいが、今回の発見で、様々な細菌の可能性について研究が進むことになる。
また、「RSVワクチンがゴール間近(RSV vaccines near the finish line)」というニュースも嬉しくなる。呼吸器合胞体ウイルス(RSV)に対する2つのワクチンの大規模臨床試験によって、これらのワクチンが、感染症によって最も大きな打撃を受ける2つの集団、すなわち乳児と高齢者を安全に保護できることがついに示された。いずれのワクチンも、60歳以上の高齢者において、重篤な副作用を引き起こすことなく、重症疾患を予防した。1つのワクチンはさらに、妊娠後期の母親に投与して、抗体が胎児に移行するようにした場合、6ヵ月にわたり乳児を保護したという。50年前の実験的候補ワクチンの臨床試験の反応には問題があったが、原因を突き止めながら研究チームは、新しい手法を編み出した。GSK社とPfizer社が実施した今年の試験から報じられた良い結果によって、この戦略が正しいことが示され、Janssen Pharmaceuticals社とBavarian Nordic社は、それぞれ独自の高齢者向けRSVワクチンの有効性試験を実施中であり、いずれのワクチンも、開発の初期段階で良好な成績を示しているというから、母親へのワクチン接種が可能になる日は遠くない。
「ウイルスが多発性硬化症の原因と判明した(Virus fingered as cause of multiple sclerosis)」というニュースも衝撃的だ。研究者らは、膨大な量の軍の医療記録に基づいて、一般的なヘルペスウイルスの一種が、免疫系により神経細胞が攻撃を受ける疾患である多発性硬化症(MS)において不可欠な役割を果たすことを明らかにした。今回の知見は、この謎の疾患に対して治療または予防を行う新たな方法につながる可能性がある。多発性硬化症の患者は世界中に280万人おり、軽度の症状(霧視、疲労、しびれなど)を示す患者もいる一方、徐々に会話や歩行ができなくなる患者もいる。今回の研究で、現在臨床試験が行われているEBウイルスに対するワクチンの1つがもし有効であることが示され、世界中の子供たちに投与されるなら、いつの日か多発性硬化症も、ポリオのように事実上根絶されるかもしれないという。
「米国で画期的な気候法が可決される(United States passes landmark climate law)」というニュースに驚きながら、期待もする。
また、「小惑星の軌道変更(Asteroid deflected)」も興味深い。
小惑星ディモルフォスは、今年実施された惑星防衛システム実証実験の標的であるが、冷蔵庫サイズの宇宙機を衝突させた衝撃力によって、ディモルフォスの軌道変更に成功したという。
「200万年前のDNAから古代の生態系を復元(Ancient ecosystem reconstructed from 2-million-year-old DNA)」したという。
最近まで、DNAの保存可能期間は約100万年間とされ、それ以前よりもはるか昔の遺伝物質は著しく劣化するため、解読は極めて難しいだろうと考えられてきた。2022年、少なくとも200万年前に遡る小さなDNA断片群をグリーンランド動植物極地砂漠の凍土から抽出された。研究者らは、環境DNA(eDNA)には失われた世界を復元する力があることを実証したという
いくつかの「BREAKDOWNS」ニュースもある。
「ゼロコロナ政策はすでに機能していない(Zero COVID no longer works)」として北京などの都市では11月、人々は政府の厳しいゼロコロナ政策に対して街頭デモを行った。
当初、中国のゼロコロナ政策は成功だった。しかし時が経つにつれて、その厳しいロックダウン政策によって中国経済は圧迫され、国民の不満も鬱積した。この政策はまた、公衆衛生にとってはほぼ間違いなく有害無益であった。政府は12月、遅まきながら制限緩和に乗り出したが、正式にはゼロコロナ政策をやめたわけではない、と。
「科学は緊張関係にある国々を結び付ける(Science ties fray)」として、欧米と中国の緊張関係や、ヨーロッパとウクライナ、ロシアの問題である。研究が中止、縮小などだけでなく、大国の首脳たちは、共同研究に門戸を開けているようにも見え、こうしたが進んでいる側面も紹介されている。クリーンエネルギーへの支出が世界で今後10年間、少なくとも50%増加するとアナリストたちは推定するが、世界のエネルギー市場の予測は危険な状態になっているとも指摘している。
以上。今回は翻訳文をそのまま引用させていただいた個所も多い。わかりにくい英語をここまで読みやすく翻訳してくださった翻訳者、チェッカー、校正者に感謝申し上げたい。
機械翻訳をかければ文章はそれなりに読めるが、専門知識をもたない私たちが理解するには苦しい。翻訳者でないとできないことが多い、と再認識した次第である。
日本語翻訳文は下記
原文は下記