翻訳で成した明治維新
国立国会図書館で開催中の企画展「知識を世界に求めて 明治維新前後の翻訳事情」を観覧してきました!
オランダ語を介して知識を得た江戸時代
日本史上はじめて戦乱が無かった江戸時代。日本は徳川幕府の下、鎖国体制を敷いていました。そんな中で、西洋諸国との唯一の繋がりの場だったのが長崎の出島です。そして、その出島への出入りを許されていたのはオランダのみ。伝統的に交流のあった中国、朝鮮を除いては唯一江戸時代の日本と国交のあった国がオランダなのです。
そして、江戸時代の日本はオランダを通じて西洋諸国の知識を得ようとしました。
その代表的なものといえば、やはり「解体新書」でしょう。
解体新書の原本であるターヘル・アナトミアはもともとドイツ語で書かれたものであり、前野良沢、杉田玄白ら蘭学者が翻訳したのはターヘル・アナトミアのオランダ語版でした。
江戸時代の日本は、唯一親しんでいた西洋であるオランダを介して西洋諸国の知識を吸収していったのです。そして、そういった状態は幕末まで続きました。
開国と外国との邂逅
オランダを介した情報収集も、幕末に列強諸国が日本との交流を求めて開国を迫ってきたことにより終焉を迎えます。
ロシア帝国、イギリス王国、アメリカ合衆国。次々と列強諸国が日本近海へと姿を現し、ついに幕府は長く続いた鎖国体制を解いて開国することになります。
出島のみから、函館や横浜へも。
開国に伴い、オランダ語を介して西洋に触れていた状態から、次第に英語やフランス語を介して西洋文明に触れるように変化していきました。
翻訳が支えた明治維新
開国、そして江戸幕府から明治新政府へと行政権者を移行させた日本は「富国強兵」のスローガンを掲げて西洋列強をお手本に、各分野での近代化を推し進めます。その際に重要となったのが「翻訳」です。
国家プロジェクトとして政府主導での情報収集・海外文献の翻訳はもちろん発生しますし、開国によって輸出入が自由になったことにより民間においても海外の書籍などを輸入して翻訳するということが盛んになりました。福澤諭吉の「西洋事情」をはじめ、多くの日本人がそういった外国語から日本語に翻訳された「西洋の知識」を読み、蓄えていったのです。
また、本企画展では実利に直接かかわる翻訳のみを取り上げているわけではありません。展示の第4章では「翻訳文学の歩み」と冠し、海外の小説などの明治時代の翻訳版が展示されています。
ロビンソン・クルーソーや、十五少年漂流記や海底二万里で知られるジュール・ヴェルヌの小説など、多くの物語が翻訳され、明治の日本人に親しまれたことがよくわかります。
知識を世界に求めて
現代とは、グローバル化の時代と言われます。
実際に、街を歩けば外国人の人とすれ違うことはとても多くなりました。普段使用している何気ないプロダクトにしても、世界との関わりを絶ってしまっては入手や製造が困難になってしまうものがほとんどです。
そういった時代において、世界とのやり取りはもはや欠かすことのできない営みとなり、「翻訳」という行為も、専門性はさておき、明治時代と比べると比較できないほどに多くの人が行うようになったのではないかと思います。
そんなことに考えを巡らせることに繋がるような、そんな企画展でした。
国立国会図書館の企画展示「知識を世界に求めて 明治維新前後の翻訳事情」は日曜日を除いた12月9日(金)までの開催です。
お時間ある方は是非、ご観覧いただければと思います。
文:古谷